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ジョイント195

自分が思いついた文章を徒然なるままに書くブログです。二次創作系。がんばっていきます!
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ある女子高生の初恋
どうも!お久しぶりです!…ここのところペースがた落ちですね…。これと、もう一つ追加させていただきます。今回のは実験作的な要素を含む、オリキャラが主人公というものです。苦手な人もいるかも。でも、別にキョン以外とは絡んでないんです。ちょっと長めですが、軽くどうぞ!




その日、私は窮地に立たされていた。翌日は文化祭。私は準備の責任者。みんなを帰した後、お手伝いで残ってくれた仲の良い友達と最後のチェックに追われていた時だった。

「どうしようか…」

「うん…」

「ヤバいよね…」

私たちの言葉。そう。ヤバいのだ。私たちは喫茶店を出すことに決定している。そして今日全ての飾り付けが終わった。だが――――何の偶然か。チェック中、風通しを良くするため窓を開けていたら、強い風が吹いてセットの一部が壊れてしまった――――。
今からやったら間違いなく徹夜になる。しかし、今日は帰って食べ物の下準備をしなければならない。材料は全て私たちの家にあり、人に頼むにも時間が遅すぎるのだ。

「と…とにかく!修復しよ!」

ユイが言う。ユイも実際分かっているだろう。しかしやるだけやらなきゃならない。絶対に間に合わないかもしれないけど、明日何とか直せるくらいのレベルまでは持っていきたい。

「そう!ユイの言う通り!」

サヤも言った。私は黙って頷いた。みんなで作業に取りかかる。
友達の存在がありがたかった。
黙々と、ただ黙々と作業し続ける。
だけどやっぱり、絶望的な気分のままで作業をし続けるのは限界があったみたいで、みんな段々手が止まっていく。頑張らなきゃいけないのは分かっていても、どうしようも無かった。
そんなような時、

「ねぇ!あの人…手伝ってもらえないかな?」

サヤが廊下を指差して言った。こんな時間まで残っている人が居たらしい。なんだかダルそうに廊下を歩いている男の子が一人。見かけたことがあった。確か、あの涼宮さんと一緒のなんとか団っていう集まりの一員の人だった。隣のクラスの男の子。

「流石に無理じゃないかな…。この時間まで残ってるってことは、自分もやることがあるんじゃないの?」

ユイの言う通りだと私も思った。でも躊躇してられないのも、成り振り構ってられないのも事実。

「ダメ元で…行ってみよう」

私は言った。ユイは少し驚いた顔をした。サヤは頷いた。私たちは作業を止めてその人のところへ行
く。

「あの!」

サヤが後ろから声をかけた。その人は何とも気だるそうに振り向く。
手伝ってくれる可能性は低い気しかしないような態度。

「なんだ?」

ポケットに手を突っ込んだまま、私たちに問い掛けるその人。

「ごめん…。そのいきなりで申し訳ないんだけど…」

「手伝って欲しいの!私たちのとこ、ハプニングがあって…壊れちゃって…今からやったら間に合わないの!」

ユイのセリフを受け継いで、サヤが言う。ハッキリとした性格のサヤはあまり人見知りしない。初対面でも動じない。うらやましいと思ったことは何度もあった。

「…それは災難だったと思うが…悪いな。俺もまだやるべき作業が残っているんだ。別の奴に頼んでくれ」

――ダメか。

そう思った。この人はこの人の仕事があったみたいだ。他人の仕事まで付き合ってられないと言うのが正直な気持ちであろう。

「そうだよね…ごめんなさい」

私が代表して謝った。ユイは申し訳なさそうな顔をして、サヤはちょっとくらい手伝ってくれても、と顔に書いてある。

「いや…こっちこそすまん」

その人はそのまま廊下を歩いて行った。

「冷たいやつ~」

「サヤ。仕方ないってば」

サヤも理不尽だってことは分かってるんだろう。普段はこんなことに文句を言う子じゃない。絶対に成功させたいと思っている気持ちの現れ。
結局私たちで何とかやることにする。気分は良くないままで。
やがて――――

「もう間に合わないかもね…」

ユイが言ってしまった。言ってはいけない一言だった。サヤの顔がみるみる内に変わっていく。

「ユイ!何言ってんの!ちょっと壊れたぐらいで失敗にしちゃいたくないでしょ!」

「でも!…もう…」

サヤの怒り。それが口火を切った。

「でもも何も無いでしょう!とにかくやるしかないんだから!手動かしなさいよ!」

「だって!…こんなに壊れちゃってるのにもう間に合わないよ!サヤだって分かってるでしょ!」

二人の言い合い。私は悲しくなった。私のせいだから。私が窓を開けた張本人だから。私のせいで二人はこんなケンカを始めてしまった。

「ごめん…二人とも…」

私は泣いた。悔しいのと自分を責める気持ちに押し潰されて。泣くのを止めることが出来なかった。

「あ…」

「…」

私が突然泣き出したことで二人は、私になんと声をかければ良いのか分からないようで押し黙ってしまった。嫌な空気。こんな空気を作ったのも私。

「ごめん…」

私はただ泣き続けることしか出来なかった。自分が情けなかった。

ガラッ―――――

教室の扉が開かれたのはそんな時だった。

「まだやってたか…」

その人はそう言って教室に入って来た。だが私たちの間に流れている空気を感じとったのか、中々入って来ようとはしない。しかし、息を一つ吐いて意を決したように、私たちの近くまで来る。

「…すまん。取り込み中みたいで悪かった。でも一応、俺の方も方が付いて、気になって来てみたんだ。許してくれ」

頭を下げたその人。
私たち三人は少しあっけに取られた。さっきのことを気にかけて、来てくれるような人が居たことに驚いた。自分の仕事が終わったからと言って、特に親しくもない私たちなのに。
やがてその人は頭を上げて、手に持った三本の缶を私たちに見せた。

「差し入れと謝罪…のつもりだ。それで、謝罪ついでに少し手伝わせてもらう。…声を掛けられたのも何かの縁だからな」

その人は、少し気まずそうな顔をしながらそう言っていた。

「あ……うん。…そのよろしく…」

「…ありがとう」

その人の言葉にユイとサヤがそれぞれ反応を見せる。ユイとサヤは私を見ていた。「大丈夫なの?」と目で言っていた。私は涙を拭いた。不思議と、一人加わっただけなのになんとかなるような気がしてきた。やれそうな気がしてきた。

「…うん。ありがとう。よろしく」

私が泣き止んだことにほっとしたのか、その人は気まずそうな顔を解いて少しだけ安心したような表情を見せてくれた。

「じゃあ取りかからないと!」

「そうだね!」

サヤの号令。いつもの元気を取り戻したようだった。それにユイも続く。二人は今までの作業に取り掛かった。

「すまないが、どんなのをやれば良いか教えてくれ」

「うん」

自然、私とその人がペアになる感じで、作業を再開する。私は一つ一つ、セットはどんな作りだったか、セット配置はどこにするか、をその人に教えた。

「こっちのテーブルクロスはその一番前の席に…」

「分かった」

テキパキと作業を進めるその人。妙に手慣れていた。

「随分、早いね。作業。」

「まあ…こういうことは散々やらされてるからな」

苦笑して、けれどどこか楽しげにその人は言った。一瞬変な気分になる。

「次は?」

その人の声でハッとした。いけない。自分がやることはまだある。

「次はそっちに机をくっ付けてもらって…」

指示を出す私にも嫌な顔はせず、その人は黙って従って作業を続けてくれた。
そしてそれから二時間くらい経って、全ての準備が終了。時刻は一時。今から帰って、徹夜で食べ物の準備をすればギリギリ間に合う。

「これで間に合うじゃん!」

「良かった…」

サヤとユイが私の方へ来て声をかけてくれた。本当に良かった。これで明日には何とかなる。

「ありがとう!マジで助かったよ!」

「まあ…良かったな」

サヤの言葉にぶっきらぼうに返すその人。照れているみたい。分かりやすくて、少し可愛い。

「じゃあ、俺は行く。とりあえず、明日に備えて親に迎えに来てもらった方が良いぞ」

照れたまま、そっぽを向いて言うその人。私はそれがおかしくて、笑いながら、言う。

「大丈夫。ウチの親が車で来てくれるみたい。というか、親の向かえ無しじゃ帰れないよ。この時間に帰るの禁止されてるし、無理矢理帰っても補導されちゃう」

「そうだったな」

その人はそう一言言ってから、私の方を向いて、笑った。
――――その時だった。胸が一気に高鳴ったのは。子供みたいな無邪気な笑顔にドキっとしたのは。照れた表情の後に見せた子供っぽい表情。心臓が高鳴る。顔が熱くなる。

「じゃあ、俺は行くから。ウチの団長様がそろそろ起きそうなんでな」

「うん!本当にありがとうね!」

「私からも、ありがとう…」

サヤとユイの声がどこか遠くのものに聞こえて、私はその人が教室を出て行くのを黙って見守ることしか出来なかった。
私の顔は熱いまま、心臓はうるさいくらいに音を発したまま――――。



ある女子高生の初恋



「――――で、その男の子のことをもっと知りたい、と」

「…うん」

文化祭から数日経った、ある日の放課後。
私は彼と一緒のクラスの友達に相談をしにきている。
彼女の名前はマリ。恋愛や、そう言った相談ごとについては、みんなの良き聞き役であり、口も堅い。私の友達からの信頼も厚い女の子。
あの後――――結果的に私たちの文化祭は成功を収めた。料理の下準備も全て終わらせることができ、間に合わせることが出来たのだ。しかし、文化祭終了後のゴタゴタのせいで未だにお礼を言えていない。それが気になって仕方ない。それに――手伝ってもらったあの日から、彼の顔が頭に焼き付いて離れない。照れ臭そうな表情とか、ちょっと子供っぽい笑顔とかが、私の頭をぐるぐる回ってしまっているのだ。廊下でたまたま会っても、サヤとユイは話しかけに行くが私には出来なかった。ものすごく恥ずかしくなって、さりげなく逃げ出してしまう。情けないなんて思うけど、どうすれば良いのかがサッパリ分からない。そして気付いてしまった。これが『初恋』なんだって。

「遂にあんたも色気付き始めたか。男子とはまともに口もきかないあんたがねぇ。安心したよ」

「そんな風に言わないでよ。私がすごく嫌な女みたいじゃない」

「アハハ…。ごめんごめん。でもまさか、あのキョン君にね」

キョン君というのが彼の名前。もちろん本名じゃないけれど、みんながそう言っているらしいので私も使わせてもらうことにする。
私は、男の子とはまともに話せないような女だ。女の子の友達はそこそこに居るけれど、男の子の友達は全く居ない。もちろん話さないわけじゃないけれど、まともな会話を交わしたことはほとんど無い。あの時は本当に切羽詰まっていたからそういうことを意識しないで済んだ。だから余計にあのキョン君が私の中で特別な存在になってしまっているのだ。恋愛なんて少女漫画や、友達の話しなどしか聞
かなかった私。だが今は恋に恋する女子高生の御多分に漏れず、そんな状態になってしまっている。

「それで、普段のキョン君ってどんな感じなの?」

「う~ん…。ま、いっつもダルそうにしてるかな。男の友達はそこそこだけど、女友達はあんまり。男友達で仲良いのは谷口と、国木田君っていう感じかな」

「ふ~ん…」

「それと…」

そこでマリは一旦言葉を切った。次の言葉を言うべきか言わないべきか迷っているような感じ。マリに
しては珍しい。

「どうしたの?」

「いやね…。今のあんたに言って良いもんかどうか、ってね。少し考え中。…友人として、応援してあ
げたい気持ちもあるんだけどさ、相手が悪いっていうのも思うのよ」

「…どういうこと?」

「うん…」

マリはまだ言いづらそうにしていた。何か彼の秘密でも知ってしまっているのか。それとも、

「…ひょっとして、もう彼女が居る?」

「いや!そういうわけじゃないんだよ!ただね…『一応』そういうわけじゃないって話しなの」

一応――という単語がやけに気にかかった。考えられるのはもうすでに良い感じになっている子がいるとか、そういうことだった。有り得ない話しじゃない。ちょっと分かりづらいけど、ちゃんとした優しさとかを持っていそうな人だったと思う。まだ分からないことは一杯あるけれど、私が感じることが出来たのは彼のそういうところだ。だから、そんなところを魅力に感じる女の子が居ても不思議じゃない。

「そっか…」

「ああ!そんなに落ち込みなさんな!…なんていうか言葉に現しづらいの。あんたはさ、違うクラスでしかも噂とか疎い方でしょ?だから知らないのかもしれないんだけど…涼宮ハルヒは知ってるよね?」

その人の名前なら、多分この学校の生徒全員が知っているんじゃないかと思う。もうすでに学校一の有名人と言っても過言じゃない。最近は少し落ち着いてきたという話しも聞くけど、『何もかもが規格外の変わった人』だというのが一般的な見解。

「その人の団の一員がキョン君なのは知ってるよね?」

「うん」

キョン君という名前を知ったのはマリからだったが、涼宮さんとキョン君が同じ部活みたいなところに所属しているのは知っていた。涼宮さん、長門さん、朝比奈さん、古泉くん、そしてキョン君。五人でいるのをちょくちょく見掛けたりしていたから。
ここまで考えて、嫌な予感がした。

「もしかして…その涼宮さんとキョン君が?」

「…そんな感じ…。いや!でも!二人とも付き合ってるわけじゃないんだけど、仲が良すぎるっていうか、なんというか。涼宮さん、ほとんどキョン君としか喋らないし、授業中とかいっつもキョン君にちょっかいかけてるし。しかもキョン君以外の前じゃ笑わないの。キョン君はキョン君で毎回そんな涼宮さんのことちゃんと相手にして、なんだか楽しそうに話しちゃってるし。…だからそういう感じに見えなくもないっていうのが、ウチのクラスみんなの総意。…いやごめん。あんたにはちょっと酷な情報だったね。でもいずれ分かることだからさ」

マリの言う通り、キョン君の情報を集めようとすれば分かることだと思った。そして涼宮さん――。壁が高過ぎる。女の私から見ても、というより誰が見ても完璧に近い美人だと言わざるを得ない。私に勝てる要素なんか皆無。それでも、諦められるのかと言うと――そんな簡単にやっぱり止めたとは言えない。仲良く話したことがあるわけでも、彼のことに詳しいわけでもない。だけど、この感じることの出来た『恋』という感情は紛れもない本物なのだ。私の初恋。何もしていないまま終わらせたくはない。

「確かに酷だよね」

「でしょ?」

「でも、マリ。私諦められないっぽいよ。涼宮さん相手っていうのはキツいけど…なんとかしたいって思っちゃうもん」

私のその言葉を聞いて、マリはちょっと驚いたようだ。普段の私は大人しい方だと自分でも分かっている。友達からも言われる。だから、私の言葉はマリにとって相当意外なんだと思う。

「なるほど…。あんたからそんな頼もしいセリフを聞くとはね。やるじゃんよ。じゃあそんなあんたにプレゼント」

そう言ってマリはケータイを開いた。少しそれを操作して、ちょっと経ち、私のケータイ電話が鳴る。メール用の曲だ。

「見てみ」

マリのその言葉に従って、私はマリからのメールを見た。そこにあったのは見知らぬ誰かのアドレス。
これはきっと、彼のもの――。

「マリ…」

「適当な理由付けて、谷口から聞いといたよ。…私の考えだけど、キョン君も涼宮さんも恋愛関係は、二人ともすごく疎いと思う。二人が完全に自覚する前に、あんたがキョン君を奪っちゃいな。ズルいとか思っちゃダメだから。恋愛なんて多少卑怯でも早い者勝ち。…本当だったら、普段のあの二人を見てる一人として止めようと思ってたけど、涼宮さん相手でも諦めようとしないあんたなら、可能性はある。彼女とは違うタイプだけど、あんた可愛いし、どっかに隙はあるよ。だから、とことん頑張りな。私は応援してるから」

「…うん。ありがとう」

改めてマリの頼もしさを知って、本気で感謝した。心から、本気で。

「そしてアドバイス。キョン君にアプローチかけるなら、涼宮さんの前ではやめときなさい」

「…どうして?」

「何回か、キョン君が教科書忘れて隣の席の女の子に見せてもらってた時があったんだけど、その時の涼宮さん、ものすごい機嫌悪くしてふて寝してたよ。キョン君からじゃ見えないみたいだったけどさ。あれはどっからどう見てもヤキモチね。まあ教室の空気がそれだけで死んでたよ。実際私もあれにはマジでビビったよ。その授業の後にキョン君が話しかけて事なきを得たけどね」

「…それってもう完全自覚症状あるんじゃないの?」

「そうじゃないと私は思う。キョン君が話しかけるとすぐにいつも通りの二人になるし。今まではキョン君にモーションかけるような女の子がいなかったから、涼宮さんは安心しきってるんだと思う。そんなとこでモーションかけてみなよ?自覚しちゃうこと請け合いだね。その瞬間はもうゲームセット。キョン君に対して本気になった涼宮さんに勝つのは無理。だから涼宮さんの前では禁止」

「そういうことか…」

「そういうこと。厳しい道だけど、それだけ隙が少ないってことを頭に入れときなよ。私のアドバイスはこれくらいかな。後はあんた次第ね」



マリのアドバイスは参考になると思った。中々的を付いていた。私は勝たなきゃいけないのだ。まだ自覚のない涼宮さんに。一人の恋する乙女として。
けれど、マリの前では宣言したし、諦めることなど頭の片隅にも無かったが、本当は自信なんか無い。初めてだし、手探りだ。不安で仕方がなかった。マリと別れて、家に帰り、『キョン君』と登録したそのアドレス。そこをクリックしてEメール作成画面へ。
件名にお久しぶりですと入力してお決まりの絵文字をデコレーション。本文作成。内容はありきたりなもの。まずいきなりのメールにごめんと入れ、私の軽い自己紹介と文化祭の時のお礼とこれからよろしくというメッセージを入れておく。

「これで…大丈夫だよね」

思わず何回も変なところが無いかどうか見直してしまう。確認が済んで、いざ送信となる。しかし、

「緊張…するな…」

久しぶりも何も、あの時から全く話していない女の子のことなど、覚えていてくれるだろうか。ドクドクと心臓は脈を打つ。手はちょっとだけだが震えている。こんなに緊張するのは、高校受験の時以来だ。成績は足りていて、受かる可能性ほぼ百パーセントだったが、それでもめちゃくちゃ緊張したのだった。それとそっくりの緊張感だ。

「ようし!」

――――いざ!
そう思って送信ボタンを押した。メール送信中の画面になり、やがて送信完了の画面。

「ふ~…」

溜め息を一つ吐く。少しだけ緊張から解かれた気分。メール一つ送るのでこんなにも緊張してしまうなんて、これから精神は持つのか、心配。でもこれにて第半歩は完了だ。後は返事を待つのみ。返事が返ってきたらそれでやっと第一歩になる。返事のことも少し気がかりで、ついつい何度もケータイを開いては閉じる作業を繰り返す。そんなに早く返事が来るわけないって分かってるのにね。
こんこん――――

「わ!」

ノックの音に思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。いきなり外部からの音。今まで思春期特有の自分の世界に居たから仕方ないか。

「飯だぞ~」

お兄ちゃんの声だった。本当にタイミングの悪い奴め。向こうが悪いということは無いのに、こうも理不尽に思ってしまうのは仕方がないだろう。

「…分かった」

自室の扉を開けると、もう兄は居なかった。先にリビングに行ったものと思われる。告げることだけ告げて居なくなるなんて、私の不機嫌そうな顔を見せつけられないじゃないか。まあ良いか。
私と兄の部屋がある二階から一階のリビングへ。お兄ちゃんとお母さんはもうすでに食卓についていた。
お母さんは何故か今日のメニューに赤飯を選んだようだった。理由はスーパーで安売りしていたからとのこと。時期を選んで欲しいと思ったがまあ仕方がない。いつも作ってくれているわけだし、文句なんか言えないだろう。夕御飯の後、すぐに自室に籠る。余りにも急いでいたからお母さんに不思議がられた。去り際に兄のあのにやりとした顔が気にかかったが、無視だ。ベッドの上に置きっぱなしのケータイを開く。が、

「…来てないか」

とりあえず、小まめにケータイをチェックするような人ではないらしいということが分かった。分かってどうしようというわけでもないけど。新着メールも確認――無し。何となくその作業を五回くらい繰り返してしまう私。自分でも悲しくなるがちょっと舞い上がっている。たがとにかく返事がなければどうしようもない。私はお風呂に入ることに決めると、着替えを持って廊下に出る。

「お、今日はやけに早いな」

今ある意味で最も会いたくない人物の登場。ご飯中も落ち着かない私の様子に何か気付いていたようだし、今お兄ちゃんには関わりたくない。

「別に良いじゃない」

それだけ言って、お兄ちゃんの脇を通り抜けようとする。

「ちょい待て。そんなに焦るなって。お前にそんな冷たい態度取られると、兄ちゃん悲しいぞ」

知ったこっちゃない。

「…無視すんな。まああれだ。あまり焦って熱くなると、ロクなことが起こらないぞ。男はな、メールをそうそうチェックしないのが大半だからな。返事待ちであんまりそわそわしてもしゃーない。どんと構えて待つのもアリだ」

この兄――何故こんなにも洞察力が凄すぎるんだろうか。それとも私が分かりやす過ぎるのか。

「…」

何となく立ち止まって兄の方を振り向いてしまった。

「当たりか。まあお前とは長い付き合いだからな~。何となく言っただけで当たって良かったぜ。はっはっはっ」

「…ごめん。お兄ちゃんマジ嫌いだわ。私」

「…凹むからあんまそういうこと言うなよ。妹」

私はそれだけ言い残し、お風呂へ向かう。兄の忠告だけは一応心に留めて置こうと思った。
結局お風呂でも落ち着かず、すぐに上がってしまった。私はそれだけ心待ちにしているみたいだった。やっぱり自分の制御が上手く出来ない。兄の忠告は頭にあったし、理解しているつもりだったのに。
そして自室のケータイを開くと――来ていた。返事が。いやまだ誰からかは分からないけど、可能性は高い。どくどくと再び心臓の鼓動は大きくなっていき、手が震え始める。震える手で操作すると、宛先には――キョン君とある。

「来た―――!」

思わず出してしまった喜びの声。内容はありきたりな私のものに対する返答。いきなりとかは構わない、私のことは覚えている。俺の方こそよろしく。
これだけなのに、めちゃくちゃ嬉しい。嬉しくてたまらない。たった一通送って返ってきただけなのに。

「…どうしようかな」

どうしようも何も送って返ってきた結果はここにある。これから続ければ良い。なんとか私の頭でも考えられるメールの引き延ばし方で。ついつい何度も読み返してしまったが、内容をよく見てみると私の問いに対をなしているキョン君からのメール。つまり私からまた話題を引き出さなくてはならないということだ。頑張ると自分で誓ったからにはこういうことも努力の中の一つ。考える。

――――――ありがとう。私のこと覚えててくれてるのはありがたいよ。私の友達の二人、サヤとユイっていうんだけど二人とはけっこう話してるよね?私はあんまり話してないからちょっと分かるか不安だった(笑)あの時は本当にありがとうね。私たちのクラスは大成功だったよ!キョン君は文化祭どうだった?楽しんだ?あ!キョン君ってみんな呼んでるみたいだから私も呼ばせてもらうね。それで良い?――――――

我ながら上手く作れたメールだと思った。これならばそこそこに話しを続けられる。メール返信までかかった時間は十五分くらい。このくらいで向こうからも返ってきてくれますようにと祈る。そして送信―――。
送信してしまえば後は返事を待つしか出来ない。手持ちぶたさだ。だから私は送信ボックスと受信ボックスを何度も見返すことにした。意味は無いことだけど、この待っている時間をどう潰せば良いか分からないのだ。ケータイの画面を食い入るように見つめ続けて、十五分後―――来てくれた。今度はしっかり早めに返してくれた。

――――――流石にちょっと前に会った人間を覚えられん程記憶力が無いわけじゃないさ。
文化祭は…まあまあだった。としか言えん。ウチの団長が何かやらかさないか心配だったが、実際やらかしてくれたよ。…まあ凄かったがな。アイツも楽しんでたみたいだったし。そっちの文化祭は上手くいったのか。良かった。安心したよ。手伝ったかいがあったと思う。
楽しめた?まあまあかな。そっちは楽しめたのか?
大丈夫。キョンって呼ばれるのにももう慣れてる。気にせずに使ってくれ――――――

二通目のメールにあったのは向こうからの問い。私と同じことを聞いてきているけど、一応、話しを続けてくれる意思はあるみたいだった。単純だけれど、少し嬉しかった。すぐさまメール作成に取り掛かる。気持ちは上擦っていたけれど、上手く文章を作れるくらいは落ち着いてきた。私は携帯電話のボタンを出来る限り早めに押しながら、自然と笑っていた。




その日寝たのは少し遅め。それでも軽い興奮状態だったから、寝られただけ良かったように思う。メールを打ち切ったのは私。話しが途切れた当たりからそろそろだと判断して打ち切った。私から送って打ち切るのは何とも言えなかったけど、ダラダラ続けるよりは良いと思ったからだ。
今日また送る内容を考えるのはまた一苦労だけれども、それはそれで構わない。朝の通学路が何故かいつもより楽しく感じられた。メールが上手く続けられたことと、キョン君の家の夕御飯も何故か赤飯だったということに、変な運命めいたものを感じられたこともあり――。こじつけかもしれないが、今の私にとって些細な共通点すらそういうことに繋げてしまう。分かるのは私だけだろうけど。

「よっ!」

後ろから背中を軽く叩かれた。振り向くとそこにはマリが居た。マリとは通学路が被っているのでたまに会う。

「おはよ」

「おはよ!昨日はどうだったよ?」

やっぱりかって思った。マリが昨日のことを聞いてくるのは予想の範疇だ。

「うん…。第一歩としてはそこそこ上手くいったんじゃないかなって思うよ。けっこう続いたし」

「そっか!あんたにしては頑張ったじゃん。まあ…また放課後ね」

「うん…。本当にありがとうね。マリ」

「気にすんな!私だって楽しんでるとこあるんだからさ~」

マリとそんな会話を交わしながら通学路を歩いて行く。放課後、もう一度私の成果を知りたいらしく、会う約束をしておいた。学校に着いて教室に向かって自分の席へ。授業に身が入るかどうか少し不安だ。入らない可能性の方が高いと思われる。それから今日はユイとサヤに言わなければならないだろう。それ以外の友達には言うつもりはなかった。涼宮さんにバレる危険性が高まってしまうから。マリもその辺は心得ていて、自分のクラスの誰にも話さないと約束していた。

「おはよ~」

「おはよう!」

今日も朝ユイとサヤが私の席に集まる。いつもの光景だ。だが朝言うのは早すぎるだろう。お昼休み、中庭で言うのが妥当なところかな。

「今日なんか機嫌良さそうじゃん!何かあったの?」

サヤが元気良く聞いてきた。私はやっぱり自分で思うより単純らしい。顔に出てしまっている。

「まあね。サヤ、今日はお昼中庭行かない?ちょっと寒いけどさ」

「ふ~ん…良いよ!」

「ユイも良い?」

「うん…私は大丈夫だよ」

この二人は私の行動にどういうリアクションをするだろうか。色々な意味で楽しみだった。二人も私にどんなことがあったのか興味深々なようだし。

「じゃあ早めに行こうね!行くの遅くなると、食べる時間なくなっちゃう」

「そうだよね…。じゃあまたね」

ユイの言葉の後、チャイムが鳴る。今日もまた一日が始まった。



「え~!?」

「…本当に?」

サヤとユイの反応。大きな声を上げるか、静かに驚愕の表情を作って言うか、対照的だった。

「…そんなに驚くこと?」

私の不安の心が増す。もしかしたてこの驚き様から言ったら、噂に疎い私が知らない事態になってい
るんじゃないかと思ったからだ。涼宮さんとキョン君が。

「驚くって!だって全然恋愛とは無縁そうな女の子がいきなりそんなこと言ったらさ!」

「うん…。でも確かに、あそこまで一生懸命手伝ってくれたらそうなるかもしれないね」

どうやら二人が驚いているのは私が恋などしてしまったことらしい。それは無いだろと思うと同時に安心した。私の心配は杞憂に終わったようだ。

「まあユイの言うことも一理あるか…。でもビックリだよ。キョン君だとは。初恋にしては相当ハードな感
じじゃん!壁が高過ぎてさ!ま、私は応援してるから!」

「サヤと一緒。私も応援してるからね」

「…ありがとう」

改めて思ったが私の周りは良い人が集まってくれて幸せだと思う。なんとか成就させなくては。私は決意を新たにした。



放課後。マリと教室で落ち合う。私は椅子に、マリは机に座っている。

「で?どんな感じの話しをしたの?」

開口一番、マリはそう切り出した。それ以外の話しをするつもりはないらしい。丁度良かった。

「う~ん…どんなって言われても、普通だと思う」

軽い自己紹介とか、文化祭の話しとか、夕御飯の話しとか――――。
私がそう言うのをマリは黙って頷いて聞いていた。話し終わって、一言。

「ふ…全然!まだまだ!」

「え~?」

「あんた考えてみよ?あんたがそう小さな一歩を踏み出してる間にもキョン君と涼宮さんの仲は着々と進んでるかもしれないんだよ?」

「進んでるの!?」

私は思わず叫んで、椅子から立ち上がってしまった。マリは少し驚いた顔をしてから、ニヤニヤ笑い出した。
はっと気付く私。恥ずかしくなって座り直す。くそう。

「必死じゃないの。けっこうけっこう。あんた夢中になるタイプだったんだ~。へ~」

「…」

無視してやった。悔しかったからだ。こんなところがお兄ちゃんと似ているなと思う。

「拗ねないの。普段は冷静なのに、こういう時は子供だねぇ」

「もう良いから。次に話し進めてよ」

話題転換を試みる。このままじゃずっとからかわれて終わる気がしてならないのだ。

「はいはい」

マリは一呼吸置いてから、真面目な顔付きになった。ちゃんとした話しがここから始まるのだろう。

「詳しく話しを聞かせてもらったけどね、本当だったらそれで良い。そうやってゆっくり一歩進んでいけばさ。でも、向こうにはもうすでにめちゃくちゃ仲の良い女の子がいるわけじゃん?それじゃあハッキリ言ってキツいよ。」

「あ…」

そうだ。私は昨日、メールすら精一杯だった状況で、頭から抜けていた。しかしそうだったのだ。向こうにはもう仲の良い女の子が一人居て、私は何歩もリードを許している状況にある。差を埋めるには一歩一歩進んでいたら間に合わない。

「…私も昨日はちょっとあんたの『初恋』のニュースに舞い上がってて細かくは言えなかったよ。ごめん。でもね、あんたが本気だからこそ言うよ。もっと大胆に攻めていかなきゃ!」

「…確かに…そうだよね」

スピード勝負。そんな言葉がよく合いそうだ。勝負に出るには早めの方が良い。

「…明日辺り一緒に帰れるかどうか誘ってみるよ。気付かれるかどうかちょっと危険だけど、そこは頑張って…誤魔化してもらう」

「そうしな!私の方もさりげなく、フォローさせてもらうからさ!」




――――翌日。震える指をなんとか自制して私は昨日、キョン君に一緒に帰りたいという旨のメールを送った。断られるかどうか、不安で仕方がなかったが意外にもあっさりとオッケーを出してくれた。その時の私の舞い上がり様は、隣の部屋の兄が慌てて私の部屋に入って来たほどだと言っておく。つまりはそれだけ嬉しかったのだ。あっさり行き過ぎたことが一つの不安材料であるけれど、上手くいってくれたことに代わりは無い。それをマリに伝えたら、「分かった!おめでとう!」と言ってくれた。「分かった」の裏には、約束通りさりげなくフォローしてくれるという意味が隠されているのだろう。そして今、私は自分の教室でキョン君を待っている。理由は、昇降口だと涼宮さんと鉢合わせになる可能性が高いからだ。もちろん、彼女が私を気にすることは無いだろうけど、私が彼女を見掛けた瞬間、平常心で居れる自信が無い。そういうことで失礼だと思いつつも私の教室まで来てもらうことにしたのだった。それも彼は快く承諾してくれた。「別に構わん」なんて言ってそっけなかったが。それも彼の性格なんだと思った。分かったことが一つ。
だが、私の方で一つ問題が。文化祭の準備での時はまだまともに話せていたのだけど、今はメールだけでも緊張するような状態だ。会って何の話しをしようか、全く浮かんで来ない。

「落ち着いて…」

自分に言い聞かす。気休めでもなんでも良いから、このドキドキ感をなんとかして欲しい。
深呼吸を何回か。その時――。

「待たせた」

そんな声と共に彼が入って来た。
深呼吸の途中でビックリした。だけど、ここで動揺しちゃダメだ。

「うん。大丈夫。いきなりだったけど、来てくれてありがとうね」

用意しておいたセリフを返せた。平静はなんとか装えているみたいだ。良かった。

「いきなりで少しは驚いたがな。じゃあ帰るか」

「うん」

私は彼の言葉に頷いた。ドア付近に居た彼が先ず教室を出て、私はそれに付いて行く。二人並んで学校を歩く。他の生徒はほとんど残っていない。

「部活は終わったの?」

「ああ。…悪かったな。遅くなって」

私の言葉にそっけないながらも、本当に申し訳なさそうに彼は言う。やっぱり、実は優しいタイプなんだと思った。実際話してみても、メールでもその辺はあまり変わらない。

「良いよ。誘ったのは私だし」

「…そうか。そうだったな。でもありがたい」

一度会話は途切れて歩く彼と私。その内に昇降口に着いて、一度別れる。隣のクラスだけれど、下駄箱の場所はそれぞれ別々だ。私から見て、彼はあっち側。その隙に私は深呼吸を再び。彼がメールと変わらない人だったことに安心しつつも、彼は私をドキドキさせるのだ。

「頑張れ。私」

一言彼に聞こえないように言ってから、靴を履いて、やっぱり待っている彼と落ち合う。

「ごめんね」

「構わん」

短い言葉を交わして、私たちは歩く。また無言になっちゃうのかと私は話しを振ろうとしたけど、意外にも、話し出したのは彼だった。

「メールはしてたが、顔を合わせるのは久しぶりだな」

「あ…うん。そうだね」

突然だったので相槌しか打てない私。私のバカと自分を叱咤。

「メールでも言ってたが、文化祭、成功したんだろ?」

それでも、他愛無い話しでも彼はしてくれた。良かった。それで少し安心した。

「…そうだよ。成功。キョン君が手伝ってくれたおかげたよ。どれだけお礼言っても足りないと思う」

「いや。一回言ってくれれば良いさ。あまり気にするな。クラスの連中は喜んでたか?」

「それは当たり前だよ。あの時は利益も出たくらいだし。打ち上げも楽しく出来たから、完璧」

「言うことないな…」

「あ、そういえばキョン君、文化祭何してたんだっけ?」

「俺は適当にいろいろ見回ってた。ウチのクラスはアンケート発表なんていうもんで落ち着いちまったからな。だから当日することは無かった。まあそっちの喫茶店には行けなかったけど、ライブも行けたし、なんだかんだで楽しんだと思う」

歩きながら交わす会話は本当に何でもないことだった。メールでしている内容とほとんど何も変わりが無い。だけど、本当に新鮮に感じられた。校門を出て、坂道を下る頃にはもうほとんど何も考えずに会話が出来るくらいになっていた。
自転車置き場に着くと彼は自転車を取ってきて引いて歩く。私を後ろに乗っけることは無かったけど、逆にそっちの方が話せて良かった。まだそこまでの仲じゃないのは分かっていたし。彼は一々そんなことを考えている様子は無かったけれど。

「ねえキョン君」

「うん?」

大分会話が弾むようになって、しばらく経った時、私はある一つのことを考えた。聞いてみたいことを聞いてみる。

「今気になってる人とか居る?」

ある意味、禁断の話題だった。でも私に時間が少ないのは、マリにも言われて分かっていたから、思いきった。このまま別れても十分大きな進歩だが、それだけじゃ足りないのだ。だから聞いた。

「いきなりだな」

「いきなりだよ」

キョン君は眉間に指を当てて考えているようだった。私は半ば祈るような気持ちだった。もう、自覚してしまっていたら手の打ちようが無いから。

「居ない…と思う」

中途半端な答え。キョン君も心のどっかに、彼女の存在が引っ掛かっている気がした。煮えきらない感じを受けた。

一瞬涼宮さんのこと考えたでしょ?

友達としてならばこうアドバイスしてあげたと思う。だけど今の私はこの目の前の人が好きな一人の女の子。ズルくても言えるわけがない。少しでも『私』という存在をキョン君に意識させたい。涼宮さんより今は小さくて良いから。

「そっか」

「ああ」

キョン君は不思議そうな顔で私を見ていた。急になんなんだろうと顔に出ていた。鈍感みたいだ。こんなこと聞くのは、あなたのことが気になっているからとサインなのに。
あまり意識してないからここまでは上手くいっているということも言えるけど。

「分かった。ありがとう。答えてくれて」

「ああ…」

釈然としない感じの彼。だから私は話題を何とか切り替えて、そのことははそれで収まった。別れ際、笑顔で「またね」と言った私に彼もそっけなく「じゃあな」と言ってくれた。



家に帰って自室のベッドへ。

「…焦り過ぎたのかも…」

第一声はちょっとした後悔の言葉だった。少しいきなり過ぎたのかもしれないと思った。でも、

「話せて良かったよね」

こじつけかもしれないけど収穫もあったことに間違いはない。それに話せて分かったこともあるのだ。
だからそれが良かったこと。
それにしても我ながらこんなにも積極的な部分があるとは驚きだ。男の子とまともに話しもしたことが無かった私が、あんなに普通に話せて、気になる人がいるかどうか聞けて、ドキドキした気持ちすらなんとか出来た。新しい自分。それとも元々あった自分か。今はとりあえずどっちでも良い。
そんな時、ケータイが鳴る。女友達からのメールに設定している音楽。多分マリから。
内容は今日どうだったかということと、涼宮さんに気付かれないようにしてと、キョン君にフォローはしておいたということ。やっぱりマリはよく気が利く人だった。
そして私は今日のことを報告した。

――――フォローしてくれてありがとう!嬉しいよ。今日思い切って聞いてみたんだ。気になってる人が居るかどうか。そうしたら、「居ない」って言ってたよ。でもやっぱり、誰かさんのこと引っ掛かってるみたいな感じ。でもそんなこと気にしてても仕方ないからこれから頑張るつもり。この続きは明日の放課後で良いかな?今日は少し疲れちゃった――――

ほとんど全てが私の本心のメール。ただ頑張るしかないというのは少し自分自身に言い聞かせた部分もあった。実は少し、目の前であんないかにも誰か引っ掛かってますみたいな態度を見せられて凹んでいた。その辺をマリも分かってくれているのか、いないのかは分からないけど、私の少しサッパリし過ぎているメールにも普通に返してくれて、「ゆっくり休め」と言ってくれた。
再び私は思考の海へ。それでも結局は頑張るしかないという結論しか出ない。だけどそれは喜ぶべきこと。凹んでも、いろいろごちゃごちゃと考える前に結論が出るのだから。

「よし!」

声に出して一つ気合いを入れる。今日もまた彼にメールをしないと。そう思って私は彼のアドレスを探した。




翌日。朝。

「よう」

「あ…。おはよ」

なんと途中の道で会ったのは彼だった。
ヤバいと思った。心の準備をして一緒に帰った昨日と違い、偶然のこと。私は突発的な出来事に強くないのだ。
けれど逆にこれは、いつでも話せるようになるチャンス。昨日、私は話せてたんだから大丈夫。

「久しぶりだね」

「…昨日一緒に帰らなかったか?」

思わず口に出して、ミスった。落ち着こう。

「…冗談だよ。いつもこの時間なの?」

「いや…今日はたまたま早く起きれたんだ」

良し。会話変更完了。成功した。

「妹がな、今日は早めにとびかかって来やがった。母親から言われたみたいだ」

「そうなの。というか、妹いたんだ」

「昨日は話して無かったな。将来が心配される妹が一人な。もう小五なのに…幼くて困る」

「へ~…。小学五年生でそんなことするんだ。でも良いじゃない。可愛いくて」

言いながら、きっと妹さんに好かれてるんだろうな~と思った。妹さんのことを嫌そうに話しながら、どことなく優しい感じになっている顔。良いお兄ちゃんみたいだ。ウチの兄とは違って。

「そうか…?俺はあんなに幼くて良いのか心配だ。友達はけっこう大人っぽいんだけどな」

「意外にそんなものじゃないかな?友達関係ってそんな感じだよ。類は友を呼ぶって感じだったり、全く違うタイプ同士だったり」

私もどっちかというと全く違うタイプの人と仲が良かったりすると思った。例えば男友達がいっぱいいるマリとか。私はこんなに男の子と話したことはない。別に避けているつもりはないけれど、自分から話したいとは思わないのだ。男の子はけっこう話しかけてくれるけれど、下心が感じられ過ぎて、なんとなく一線引いてしまう。だけどこの人の場合は全く違う感じだった。下心はあるのかもしれないけど、何も感じない。本当に無い気がした。

「そうかもな…。まあ妹もその友達を見習って中学くらいには少しくらい大人になってくれることを祈るよ」

「そうだね」

歩く朝の通学路はいつもの倍楽しかった。



教室まで彼と一緒に歩く。涼宮さんに気付かれる危険性はゼロじゃないけど、彼女がもう教室に居るだろうことは予測出来ていた。けっこう早くから居るというのは、マリからの情報。だから大丈夫だと思った。私の教室は彼のから見て、一つ向こう側。彼が先に教室に入る。

「じゃあな」

「うん」

そう言って普通に別れようとした。私は彼が教室に入るところを何となく見ていた。

え―――――?

思わず思った。彼が教室に入る時の表情。私に向けるものとは違う、何か。妹さんのことを話す以上に優しく、暖かいような目。特別な目。その視線の先に誰が居るのか知っていた。彼が見ている方向には一人しか居なかった。後ろのドアから教室に入れば、自然目につくのは窓側の一番後ろ。そこに居るのは一人だけだ。
この人を好きな私だからこそ、分かってしまった。分かりたくなかった。

私は彼の教室のドアの近くで、立ち尽くしていた。彼は、気付かない――――。




「…そうだったの」

思わずマリに勢いで今日の朝のことを捲し立ててしまった。ユイやサヤには気付かれないようにしていた。いつもの私でいようと頑張っていた。私やマリの他には分かりづらいことだと思ったから。
だから溜めていたものをマリの前で一気に吐き出してしまったのだ。

「うん…。いきなり思いっきりグチってごめんね」

言い切った私の気持ち、罪悪感と、何も言わずに聞いてくれたマリへ感謝の気持ちでいっぱいだった。

「いや。良いよ。私もごめん。気付かなかったよ。キョン君、鈍感なクセにそういうのは分かりやすいんだね。多分あんただけしか気付けなかったんだろうけど…」

「…うん。だからこそ、今気持ちごちゃごちゃになっちゃってるんだ。どうすれば良いのか分からなくなっちゃってる。このまんまじゃ多分、私、ダメだと思う。終わっちゃう。だって私の入り込めるとこ完全無いから。少しだけでも意識してくれれば良かったけど、それすら実は無いから。キョン君は気付いて無いだけで本当は誰も入り込めないくらいの気持ち持ってる。私のことは昨日のでちょっとは勘づいてるんだろうけど、そんなの小さ過ぎることで彼にとってはどうでも良いっていうことなんだろうと思う。気になってるとか、そんなくらいじゃ収まらないから気持ちに気付いてないように見えたんだよ。あの目は、お互い気持ちに気付いて無いとかそんなレベルの目じゃないよ」

「…」

もう私に残された手は無かった。打つ手無し。行動してからわずか四日。だけど密度が濃すぎる四日間。頑張って、私に気付いて、いろいろ知って。真剣になった。
これで終わるのだろうか。もうあの時感じた好きって気持ちとか、一緒に居てドキドキした気持ちとか、終わりなんだろうか。
彼と一緒に居て嬉しかったあの気持ちも、初めてメールを送った時の緊張も、全部終わりなのか。

「それでもさ…それで良いの?」

マリが言う。

これで良いの?

――――良いワケない。良いはずがない。私はまだ伝えてない。ホントのホントに最後の手段はまだある。残されている。『好き』だと、言葉にして伝えること。ちょっとでも私の入る隙間を開ける手段。自分の手でこじ開ける力業。このままじゃそれすら無いまま終わる。それはやっぱりダメなんだ。

「マリ…」

「うん」

マリと目を合わせた。マリは頷いてくれた。ならば、私のすることは、一つだけ。




校舎裏。心臓が早鐘を打っていた。呼び出したのは私の方なのだから、変なところを相手に見せるわけいかない。用意してきた言葉を一字一句確認する。相手がどう言ってきても大丈夫なようにシュミレーションを重ねる。

「大丈夫…」

自分に言い聞かす。不安は拭えるわけではないけど、少しだけ心が安らぐ。とにかく今は、伝えることだけを考える。
思えば、短かった。わずか五日での勝負。それは相手が悪いというせいもあった。でもこの五日でいろいろな経験を出来たことは違いなかった。今日はその時間の集大成。あの時始まった、私の『初恋』の。

「待たした」

いつもと変わらない、彼が現れる。目の前に居る彼は、特別カッコイイとかそういうわけじゃない。だけど、その彼は私に恋をさせる十分な要素を兼ね備えていた。分かりづらい優しさ。でも、伝わる相手には伝わる優しさ。そんなところに触れてしまえば、私じゃなくても誰だってこの人を好きになる気がした。

「大丈夫だよ」

自分で思っていたより穏やかな声が出た。軽い安堵。好きな人を目の前に迎えながらも自然な私だった。それはこの四日間そうでいられた気がする。ドキドキしながらも自然な私でいられた。それはなんとなくこの人のおかげな気がした。変な話し。

「話し…あるんだ」

「ああ」

彼を呼び出したのは昨日のメール、覚悟を決めて、直接言おうと思ったから。勇気がいるのは分かっていたけど、伝えたい気持ちを直接言わずに、どう彼に伝わるというのか。だから、こうした。

「ちょっとは…気付いてる?」

「まあ…な」

私はちょっとだけ遠回りなことを言って牽制した。鈍い彼でも、今がどんな状況か把握はしてくれているみたい。

「じゃあ言うよ」

そして私は言わなくちゃ。彼の中に私を少しでも存在させるために。自分の居場所を取るために。

「私ね、あの文化祭の時からさ、キョン君のこと完全好きになっちゃってた」

「ああ…」

彼は少しだけ動揺していた。多分、面と向かってこんなこと言われた経験が無いのだろう。私だって言うのは初めてだ。『初恋』なのだから。私だって言いながら、ドキドキしっぱなしなのだ。悟られないようにしているが。私は続けた。

「あの時さ…一回は断られたけど、わざわざ後で来て、手伝ってくれたじゃない?その時ね、この人なんて優しい人なんだろうって思ったの。実はずっと私たちのこと気にかけてくれてたっていうのが伝わってきてさ。嬉しかったんだ。あの差し入れのコーヒーも、今でもまだウチの冷蔵庫に残ってるくらい。それで、私、キョン君のこともっと知りたくなったんだ。だから、メールしてみたの。一緒に帰ったりもし
てみた。それでもっと、好きになったんだよ」

「…」

彼は黙って私の言葉に耳を傾けてくれていた。私の目を、真っ直ぐに見つめて。そんな真剣な顔も、
初めて見れた。

「だからね、良ければ、私と付き合って」

私は自分の想いを吐き出した。私の全ての想いだった。

「そうか…」

彼は一言、そう言って間を置いた。言葉を選んでいるのが分かる。どんな言葉が出てくるのか。

「俺は…多分、最低野郎だと思う」

前置きで出てきたのはそんな言葉だった。全くの予想外。でも、私は黙って聞く。それが最低限の礼儀。

「気持ちには応えられない。…俺は、メールをしたり、一緒に帰ったりしながらどこかで別のことを考えていた。それは何故か分からなかった。だけど、君が俺に…いろいろなことをしてくれる度に俺は気付いちまったんだ。俺はずっと思ってたのは…これが別の女の子だったら良いって思ってたことに。そんな関係になりたい相手が居たことに。気になる人…って言われても、引っかかりながらピンと来なかったのは、それ以上の気持で俺はその別のやつのことを考えてた」

ああ――――そうか。

私のこれまでの行動。実は全てが仇になっていた。涼宮さんに気付かれないと思いながら行動しても、結局、私は彼に自覚させる手助けをずっとしていたのだ。気付けなかった。気付けるはずもない。私と居ても彼が普段とほとんど変わらなかったのは、私の向こうに彼女を見ていたから。そんな単純なようで難しいこと。

「だから…すまん」

そう言って彼は頭を下げた。

「良いよ。大丈夫」

そんな彼に私は自分でも驚くくらい優しい声をかけていた。その原因、一つだけ。私は彼が好きだから。想いが届かなくても、私は好きなのだ。だから、そんな声がかけられた。想いが届かないなら私はもう、彼の背中を押す役目。

「それよりさ…キョン君。私はもう良いから、涼宮さんに伝えなよ。そして絶対上手くいかせて」

「…気付いてたのか。ハルヒだって」

こんなところがまた鈍い。そして応援してやりたい。

「うん。だから、今は彼女に、そのキョン君の想いを伝えて。私のお願い」

本気だった。伝えて成就して欲しかった。私がダメだった。なら、後は彼女しかいないだろう。

「…分かった」

彼は背を向けて走り出す。その背中を私は見つめていた。遠ざかる背中。見えなくなって、私は地面に座り込む。

「終わったか…」

一人つぶやく。成就して欲しいのも本音。だけど――――

「悔しいよ…」

それも本音。溢れ出る涙も、この悔しさも。全てが本音だった。私の居場所は彼の中には無かった。入り込む隙間をこじ開けることが出来なかった。応援してくれた人達が居た。それでも私はダメだったんだ。
でも今は良い。思いきり泣いてやろう。この『初恋』で味わった全ての感情を噛み締めながら。




翌日――――休みの日。近所の喫茶店で私はマリに会っていた。

「そっか」

「うん」

マリに全てのことを話し終えた。マリはあっけらかんと私の話しを聞いた。別に、マリにとってどうでも良い話しだからというわけではない。
それは、私の妙にスッキリとした表情から、そんな態度を取ったのだろう。昨日一日、思いきり泣いたせいもあって私は完全に落ち着いていた。素直に、『初恋』が叶わなかったことを受け入れていた。

「ま!仕方ない。これも良い経験だったってことか」

「うん。これだけ人を好きになれるって学べたから。次に進むよ」

笑い合って話した。多分、私じゃ彼にとっては足りなかった。それだけの話し。彼には、もう運命みたいなもので結ばれた人が居たのだ。


「ほら!キョン!照れないの。良いじゃない!一つの飲み物で我慢しなさい!」

「だからって!ストロー二人指すことは無いだろうが!流石に恥ずかしいぞ…」

「アンタがお金無いって言うから、あたしが気を遣ってあげてるんでしょ!ほら!さっさとやる!彼女命
令!」

「はぁ…。やれやれ。分かったよ…」


そんな声がどこかから聞こえてきた。それはすぐに誰のものか分かった。私はマリと顔を見合わせて大声で笑った。
私は満足だ。本音で願っていた一つの部分が叶ってくれたのだから。「良かったね。ありがとう」と小さくつぶやいてから、私は温くなったコーヒーに口を付けた。

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thame:涼宮ハルヒss genre:小説・文学
ある女子高生の初恋 | トラックバック(0) | コメント(5) |permalink
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Comment

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オリキャラといいながら、凄く良かったです。
第3者視点のハルキョンというのもいいですね。
感想書くのは苦手でして、上手く言えませんが、とにかくなんか読後感凄く良かったのでそれだけでも。
長編お疲れ様でした!
2008/04/18 Fri| URL | 911 [ edit ]
コメント
911さん>ありがとうございました!!そう言っていただけてすごく嬉しいです。オリキャラ視点っていうのは挑戦的な部分があったので不安でしたけど、コメントいただけて嬉しかったです!
2008/04/18 Fri| URL | koko428 [ edit ]
すっごく良かったです。オリジナルキャラクターの叶わぬ恋の切なさが伝わってきました。これからも書き続けてください。
2008/04/23 Wed| URL | sksk1 [ edit ]
すごい良かったです。キョンの良さと
初恋の切なさが伝わる良い話でした。
これからも応援してます。
2008/04/25 Fri| URL | taro [ edit ]
コメント返し2
sksk1さん>ありがとうございます。オリキャラだったらこういう使い方が一番かなと思ってこういう使い方にさせてもらいました。切なさは一つのテーマだったので、感じ取って頂いて嬉しいです!
taroさん>ありがとうございます!キョンの良いところを活かさせてもらしました!何かあるとほっとけない気質(笑)美化し過ぎかもしれませんが…。これからも頑張ります!
2008/04/25 Fri| URL | koko428 [ edit ]
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